img

「熊本市近見町における皮膚科クリニックの改修プロジェクト:時を超えた愛着と新たな命を吹き込む設計」

「熊本市近見町における皮膚科クリニックの改修プロジェクト:時を超えた愛着と新たな命を吹き込む設計」

 

熊本市近見町に位置する大山皮膚科医院は、地域に根ざした皮膚科クリニックとして、多くの患者に愛されてきました。昭和58年に新築されたこの建物は、鉄骨造の堅牢な構造を持ちながらも、築40年を迎え、設備の老朽化や空間の使い勝手に改善が必要となりました。このタイミングで、医院の次世代を担う副院長が、さらなる診療環境の向上を目指して改修を計画。そこで「新築するか、既存の建物を活かして増築するか」という大きな選択を迫られました。

 

愛着を持った選択:増築か新築かの決断
改修計画を進める中で、新築にするか、増築して既存の建物を活かすかは最初に議論された重要なポイントでした。築40年の鉄骨造建物は、現代の基準で見ると新しい設備や設計に対応するために多くの改修が必要となります。試算によると、新築に近い費用がかかることがわかり、理論的には新築の方が効率的に感じられました。しかし、院長として医院を長年支えてきた父親の想い、そして医院そのものに対する副院長の深い愛着がありました。地域の患者に寄り添い続けたこの建物を完全に壊すことに抵抗があったのです。そのため、既存建物を活かした増築案が最終的に選択されました。

 

この決定は単に費用の問題を超えたもので、歴史を重ねた建物に新たな生命を吹き込むという精神的な要素が大きな意味を持ちました。家族の歴史や、地域とのつながりがある建物を維持しながら、現代的な機能を取り入れることで、昔ながらの良さを大切にしながらも、新しい世代の患者にとっても快適な空間を提供できることになったのです。

構造体の調和と工夫:木造と鉄骨造の一体化
大山皮膚科医院の増築プロジェクトでは、既存の鉄骨造建物を基盤としながら、木造による増築を行いました。既存の建物をスケルトン(骨組みだけの状態)にして徹底的な改修を行い、古い部分と新しい部分の融合を図りましたが、ここで技術的に重要な課題が浮上しました。構造体の一体化が法規制により難しかったため、増築部分をエキスパンションジョイントで繋げるという方法が取られました。これにより、異なる構造を持つ部分同士を安全に連結し、建物全体の耐震性や機能性を確保しました。

 

エキスパンションジョイントとは、異なる構造体を繋ぎながら、地震などの揺れや温度変化による動きを吸収するための仕組みです。これにより、鉄骨造の既存部分と木造の増築部分がうまく共存し、新しい機能を取り入れた安全な建物が完成しました。

デザインに込めた想い:温かみと安心感を提供する空間
設計の中で最も重視されたのは、患者にとって居心地の良い空間を作ることです。特にクリニックという空間では、患者がリラックスして診療を受けられることが大切です。そこで、待合室には工夫を凝らしました。

 

まず、待合室にはガラスブロックを用いて、柔らかい自然光を取り込む設計としました。これにより、明るさが確保されるだけでなく、患者が感じる圧迫感を軽減し、開放感のある空間が生まれました。また、ガラスブロックの使用は、プライバシーを守りつつ光を柔らかく散らすというデザイン上の利点もあります。光を多用することで、自然との調和を意識したデザインとし、患者が落ち着いて過ごせる環境を提供しています。

さらに、天井には木材を使用しました。この木材の使用は、視覚的にも触覚的にも温かみを感じさせる効果があり、金属やガラスといった冷たい素材とは対照的です。木の自然な質感が、診療所という緊張しがちな場所に、リラックスした雰囲気をもたらします。こうした工夫によって、患者の心を和らげ、安心感を与える空間が完成しました。

地域に根ざした医療施設としての再生
大山皮膚科医院の改修は、単なる建物のリニューアルにとどまらず、地域との関係性を深めるプロジェクトとなりました。既存の建物を活かしながら、新たな世代のニーズに応えることで、地域医療に貢献する役割を果たしています。

地域に長く愛されてきたこの医院の建物を維持し、次世代に繋ぐというこのプロジェクトは、建物と人々との関係性を深く考えさせるものでした。新たな命を吹き込まれた大山皮膚科医院は、今後も熊本市近見町の患者にとっての頼れる存在であり続けることでしょう。

 

 

このように、大山皮膚科医院の増築プロジェクトでは、家族の想いと地域医療に対する貢献を大切にしながら、新しい技術とデザインを取り入れた建築が実現しました。既存の鉄骨造と木造増築部の融合は、技術的な挑戦を伴うものでしたが、エキスパンションジョイントなどの工夫により、現代的な機能を取り入れた安全な建物が完成しました。

また、デザインにおいても、患者がリラックスできる空間づくりが重視され、ガラスブロックや木材を活かした温かみのある空間が提供されています。このような工夫により、今後も地域に根ざした医療施設として、患者に愛されるクリニックであり続けることでしょう。

大山皮膚科医院のように、地域の歴史や家族の想いを大切にしながら、次世代に繋げる建築プロジェクトに興味のある方は、ぜひお問い合わせください。当事務所では、地域密着型の設計を大切にし、クライアントの想いを形にするお手伝いをいたします。

医療施設・クリニック建築設計のポイント:患者と医療従事者に最適な空間を提供するために
医療施設やクリニックの建築設計は、患者の安心感を提供しつつ、効率的な診療を実現するために非常に重要です。建物のデザインは患者の満足度に直接影響を与えるだけでなく、医療従事者がスムーズに業務を行える環境づくりにも直結します。本記事では、医療施設やクリニックの設計において押さえるべきポイントや最新のトレンド、実際の設計事例を基に、どのようにして最適な空間を創り出すのかを紹介します。

 

患者中心のデザイン
医療施設の設計において、患者中心のデザインが最も重要です。患者が最初に感じる印象は、施設の外観や内装から受けるものです。そのため、クリニックの設計では、患者が安心して訪れることができるような、温かみのあるデザインを意識する必要があります。

視覚的な癒しを提供する空間
医療施設に訪れる患者は、少なからず不安や緊張を抱えています。そこで、待合室や診察室には、自然光を取り入れたり、自然素材を使用したりすることで、患者がリラックスできる環境を提供します。ガラスブロックや大きな窓を設置し、自然光を活用することは、施設全体に明るさと開放感をもたらします。また、木材を使用したインテリアは温かみを感じさせ、患者の気持ちを和らげる効果があります。

プライバシー保護への配慮
患者が安心して診療を受けるためには、プライバシーの保護が欠かせません。待合室や診察室の配置を工夫し、他の患者との距離感を保つことが重要です。また、受付から診察室までの動線をスムーズにすることで、患者の不安を軽減することができます。

医療従事者の効率性を高める設計
医療施設では、患者だけでなく、医療従事者が効率的に仕事をこなせる環境づくりも重要です。スムーズな診療が行えるようなレイアウトや設備の配置が求められます。

動線計画の重要性
診察室、処置室、受付、薬局など、各部屋の位置関係は、効率的な動線計画が必要です。医療従事者が無駄なく移動できる動線を設計することで、診療のスピードと質が向上します。例えば、診察室と処置室を近接させることで、医師が短い移動で処置を行えるようにするなど、各部門がスムーズに連携できる環境を整えることが大切です。

最新の設備に対応した設計
近年、医療技術が進化し、新しい設備や機器が導入されることが一般的です。そこで、設備の配置や電源供給、配線ルートなど、最新の医療機器を最大限活用できる設計を考慮する必要があります。将来的な設備の増設にも対応できる柔軟な設計を行うことで、クリニックの持続可能性が高まります。

安全性と衛生管理を徹底した設計
医療施設では、常に安全性と衛生管理が求められます。特に、感染症対策が重要視される中で、建築設計においてもこれらの要素を十分に考慮することが求められています。

耐震設計と非常時対策
地震などの自然災害に備えるために、耐震設計が欠かせません。特に医療施設は、災害時にも機能を維持することが求められるため、最新の耐震技術を取り入れた建物設計が必要です。また、非常口や非常用電源の配置をしっかりと計画し、災害時に迅速な避難が行えるような設計を心掛けます。

まとめ
医療施設やクリニックの建築設計は、患者にとっての安心感や快適さ、医療従事者の効率的な業務環境、さらには安全性や持続可能性を考慮した設計が求められます。建物の設計には、医療施設特有のニーズに応じた技術と配慮が必要であり、それが患者満足度や診療の質に直結します。

山口修建築設計事務所では、これらの要素を踏まえた設計を提供しており、地域の医療施設に最適な建築プランを提案しています。医療施設やクリニックの建設を検討されている方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。